Monk’s Music / Thelonious Monk

4管による分厚いアンサンブル、豪快で迫力ある演奏が魅力。内容が良ければ多少のミスなど気にしない名盤。コルトレーン、ホーキンス、ブレイキーといった大御所も参加したモンクの代表作にして問題作である。

Monk's Music / Thelonious Monk
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Album Data

モンクス・ミュージック / セロニアス・モンク
Monk’s Music / Thelonious Monk

Track Listing

  1. Abide With Me(William H. Monk)
  2. Well, You Needn’t
  3. Ruby, My Dear
  4. Off Minor (Take 5)
  5. Epistrophy
  6. Crepuscule With Nellie (Take 6)*
  7. Off Minor (Take 4)*
  8. Crepuscule With Nellie (Take 4 and 5)
  9. Blues for Tomorrow

Except where otherwise noted, tracks composed by Thelonious Monk.
Track 7~9:Additional tracks not on original LP.
*:mono

Personnel

  • Thelonious Monk – piano
  • Ray Copeland – trumpet
  • Gigi Gryce – alto saxophone
  • Coleman Hawkins – tenor saxophone
  • John Coltrane – tenor saxophone
  • Wilbur Ware – double bass
  • Art Blakey – drums

Recording Data

  • Recorded June 25-26, 1957.
  • Produced by Orrin Keepnews.

ボーナストラックについて

CDでは発売時期によってボーナストラックの有無や曲順が異なるかもしれない。track8の”Crepuscule With Nellie”は(Take 4 and 5)となっているが、これはTake4とTake5を編集で繋ぎ合わせたという意味。プロデューサーであるキープニュース本人によるライナーノートには「二つのテイクの一部をつなぎ合わせて、興味深いニューバージョンを作ってみた。」と書かれている。track9の”Blues for Tomorrow”はモンク以外のメンバーによるピアノレスの演奏である。

メンバーについて

このアルバムには、それほど有名ではないメンバーが含まれているが、この人選はモンク本人によるものらしい(プロデューサーのキープニュース談)。

トランペットはレイ・コープランドという人で、あまり知られていないだろう。モンクの他はランディ・ウェストンのレコーディングにも参加している。「セロニアス・モンク生涯と作品/トーマス・フィッタリング(勁草書房)」によると、モンクは管楽器をもっと増やしたかったが、当時出演していたジャズクラブであるファイブ・スポットのマネージャーは、経費が増えるという経済的な理由でそれを許さなかったらしい。クラブは大人気だったらしく「いつも超満員、会場に入るのを待つ長蛇の列が、隣のブロックまでおよぶこともしょっちゅうだった。」と書いてある。メンバーは、モンクにコルトレーン、ベースはウィルバー・ウェア、ドラムはシャドウ・ウィルソンのカルテットだった。バンドメンバーはジャケットに名前が無い事から、コープランドは本来バンドメンバーだったのかもしれない。

ドラムのアート・ブレイキーはモンクと非常に相性の良いドラマーであるが、当時はジャズ・メッセンジャーズという人気バンドのリーダーであり、多忙なスターであった。バンドのドラマーはシャドウ・ウィルソンであるが、このアルバムに限ってブレイキーを呼んでいる訳なので、ウィルソンは悔しかったかもしれない。

アルト・サックスはジジ・グライス。それほど有名ではないかもしれないが、素晴らしいミュージシャンで、クリーン(酒飲まない薬打たない)で知的、繊細な人だったらしい。寺井珠重さんのブログ記事『ジジ・グライスは何故ジャズを捨てたのか?(前編)(後編)』に詳しく書かれています。素晴らしい記事なのでぜひ読んでみてください。

テナー・サックスのジョン・コルトレーンはジャズの巨人であり、後に神様的存在になるほどの人。

もう一人のテナー・サックス奏者はコールマン・ホーキンス。1920年代から活躍するモンクの先輩であり、1944年にモンクをレコーディング(モンクにとっては初)に起用してくれた恩人。本アルバム録音時の1957年はハードバップ全盛であるが、ホーキンスはもっと前から活躍していた人である。コープランド31歳、グライス31歳、コルトレーン30歳、モンク39歳、ウェア33歳、ブレイキー37歳という30代のバンドの中に、52歳の大御所のおっちゃんが参加している理由は、ホーキンスは若手たちがはじめたビバップに呼応した数少ないおじさんであり、モンクが先輩や恩を大切にする人であったからであろう。

こんな方におすすめ

モンクのかっこいい曲が収録されているので男性的な、激しい音楽が好きな人にお薦め。ただし、個性が強いので初めは戸惑うかもしれない。オシャレなジャズ、リラックスして聴ける音楽を探している人にはお薦めできない。

さらっと聴いた感じ

まず1曲目の”Abide With Me”がジャズっぽくないので面食らうかもしれない。讃美歌を管楽器だけで演奏したもので、美しいアンサンブルで癒される。邪心や煩悩のある人はここで洗い流しましょう。しかしそれは1分たらず演奏で、すぐに2曲目の”Well, You Needn’t”の怪しげなイントロが流れてくる。そこから激しくエネルギッシュ、男性的で豪快なモンクの音楽が始まる。3曲目はモンクの3大バラードのひとつである”Ruby, My Dear”でしっとりするが、その後はまた”Off Minor”と”Epistrophy”というブローイング・チューン、そしてその後に”Crepuscule With Nellie”という個性極まるバラードが配置されている。管楽器4人による分厚いアンサンブルには迫力があり、アート・ブレイキーの豪快なドラムがモンクの音楽にとても良く合う。 尚、このアルバムにはミスが多い。特に2曲目では「コルトレーン!コルトレーン!」と叫ぶモンクの声が入っている。その声の後につられてブレイキーがおかしくなり尺が合わなくなるという、スタジオ録音のアルバムでは前代未聞の事故が記録されている。しかし、そういった大事故が些細な事に思えるほど演奏に迫力があり、そのためミスが残されているのである。これほどまでにジャズの魅力、すなわち即興演奏の魅力を説明できる物的証拠はないだろう。

「コルトレーン!コルトレーン!」が何故残されたのか?

本アルバムは1957年6月25日と26日の二日間のセッションで録音された。その様子は、「The Complelte Riverside Recordings」というCD15枚組のボックスセット付属の解説(プロデューサー:オリン・キープニュース本人による)に詳しく書かれている。

モンクはブルーノート→プレスティッジ→リバーサイド→コロンビアとレコードレーベルを渡り歩いたのだが、一般的な人気が出始めたのがリバーサイドの頃であり、それ故モンクの名盤はリバーサイドに多く、モンクマニアにとってこのボックスセットは必聴である。このボックスセットには、レコーディングの全ての音源が収録順に並んでおり、どういった経緯でこのようなアルバムが出来上がったのかが、わかるようになっている。このアルバムのレコーディングの1日目に遅刻魔のモンクがちゃんと時間通りに現れたが、同じく遅刻魔のブレイキーが1時間遅刻してきた事まで書いてある。

1日目は”Crepuscule With Nellie”のTake1でモンクが演奏をやめてしまったらしい。解説にはこう書いてあるー「信頼すべき情報源によれば、彼はその音楽の準備の為に幾日か眠っていなかったが…」何日分もの睡眠不足を解消する眠りについてしまったのかもしれない。油井正一氏による解説には
「モンクは弾きながら深い眠りに陥ってゆき、それをブレイキーが必至になって起こしている声まで録音されているそうだ。」
と書いてある。当時モンクは双極性障害を患っており、それが影響したのかもしれないが、事情はどうであれ、そういう訳でモンク以外のメンバーによる”Blues for Tommorow”が録音され、2日目に残りの曲を全て収録する事になり時間的余裕が無くなった。それが”Well, You Needn’t”の「コルトレーン!コルトレーン!」が生まれた背景であり、別テイクを録音する余裕がなく多少の失敗には目をつむった理由であろう。しかしキープニュースの解説にはこう書かれている。
「あの時点(コルトレーンと叫んだ時点)でテイクの中断を考えすらしなかったことで、私がモンクから学んだもう一つの教訓はこうだ。”どうかなと思っているなら、そのまま演奏を続けさせろ”ー私がここでやったように、そうすれば最後は、わずかな隙があるとはいえ、ずっしりとした価値のあるクリエイディブな成果を得ることができるだろう。」

じっくり聴いた感じ

Abide With Me

管楽器4人だけで演奏。モンクの好きな讃美歌だそうで、全16小節で1分に満たない短い演奏だが、アルバムのオープニングとして意外性があっていい。トランペットのレイ・コープランドにアルト・サックスのジジ・グライス、そしてジョン・コルトレーンとコールマンホーキンスという二人のテナー・サックス。ホーキンスの方がサブトーン(ブシューというノイジーな音)が多くて粘っこく、コルトレーンの方はサブトーンもビブラートも少なく硬い音。この二人のテナーはスタイルだけでなく、音色も全然違うので判別は容易である。

Well, You Needn’t

AABA形式32小節でテンポば173で始まり、だんだん速くなって193ぐらいになる。この曲では、モンク、コルトレーン、コープランド、ウェア、ブレイキー、ホーキンス、グライスの順に全員のソロを聴くことができる。

音数が少ないが実はリズム的に難しいというモンクらしい怪しげなイントロで始まる。

テーマは音程が跳躍するメロディが魅力的で、メロディの隙間に合いの手を入れるようにモンクがピアノを叩いてコール&レスポンスっぽくなっている。

まずはモンクのソロが2コーラス。最初の1コーラスはメロディを変形、発展させたフレーズが多いが、2コーラス目になると不協和な和音で鍵盤を叩くモンク独特のソロになる。サビのフレーズがとてもよい。注意深く聴くと足のタップ音が聴こえる。最後に「コルトレーン!コルトレーン!」と叫ぶ。なぜ叫んでいるのかは不明。

モンクの次はコルトレーンだが、ここで問題が生じる。モンクの叫び声に動転したのか、ブレイキーが妙なタイミングでロールを入れてしまう。このロールは本来モンクのソロ最後の小節に入れて、次のコーラス頭でクラッシュシンバルを鳴らして区切りをつけるはずである。しかし遅れてしまって次のコーラスの先頭小節の2拍目にまでハミ出しており、クラッシュシンバルは3拍目に入っている。これでドラムが2拍ズレてしまった。しかし、コルトレーンは間違える事なくソロを始めている。一方モンクはブレイキーに合わせている。そして困ったのはベースのウェアで、困った感が満点のミュートしたような音を7小節も出し続ける。そしてウェアが間違っている方のモンクとブレイキーに合わせてベースラインを弾き出すと、コルトレーンは「ん?」という感じでフレーズを一旦中断。その後、ちょっとだけ吹いてまた空白があるが、サビに入るタイミングでズレが無いか確認している感じである。

モンクのソロが終わってズレが生じて事態が収拾するまでの16小節ぐらいは、当然コルトレーンはまともにアドリブをすることが出来ていない。しかしその後のコルトレーンのソロは素晴らしい。さすがである。またモンクとブレイキーのコンピングも積極的で聴きごたえがある。ちなみに、この曲のサビ後半はコードが2拍毎に変化してとても難しい。細かなコードチェンジに合わせるのか、それとも大きく捉えてフレージングするのか、プレイヤーによって異なるが、コルトレーンは前者である。細かなコードチェンジに果敢に挑むタイプであり、それがこの後のコープランドやホーキンス、グライスとは異なる。

次にコープランドが2コーラスのソロ。よく歌うソロであるが、ブロウしているためかピッチが安定していない。何故かモンクのコンピングが控えめになる。2コーラス目のサビ辺りからは完全に止めてしまうのはちょっと寂しい感じがする。

ウェアのベースソロは最初ウォーキングで淡々としていて、この後どうするのか?と思っていると、リズムのモチーフを使ったフレーズが飛び出す。ブレイキーがそれに反応していて面白い。

そのリズムのモチーフをブレイキーが受け継いでいる。よく歌うソロで気持ちがいいのだが、あまり尺が正確ではない。最後のロールがちょっと変である。尺だけで考えるとホーキンスが入ったところが正しのだが恐る恐る入っている。ウェアのベースも様子を見ながら入ってくる。

ホーキンスはコルトレーンと同じくテナー・サックスを吹いているのだが、音が全然違う。スイング感も違う。コルトレーンはピッチの変化も少なく綺麗な音で、ノリはイーブン、ホーキンスはピッチ変化が多くブリブリした音で、ノリはスイング、乱暴に言えばそうなる。フレージングも違うように感じる。よりビバップよりなのがコルトレーンであり、新旧テナー巨人の共演と言って良いだろう。どちらも魅力的なテナーであるが、こういったタイプの異なるテナーを聴き比べる事ができるのが、このアルバムの魅力である。ホーキンスも難しいサビ後半は大きく捉えて処理するタイプだが、どうもそこだけはイマイチなのが残念である。

グライスはそんなに有名でないと思うが、難しいサビを本当にうまくフレージングしている。じっくり聴くと、こういういいプレイヤーを発見できる。

最後にモンクのソロが1コーラスあるが、テーマに戻りやすくする為のテーマ変奏型のソロであり、曲全体を考えると非常に効果的。特に最後のフレーズの終わり方がブレイキーのロールを前提としているようで、これにより勢いがついてノリノリでテーマに戻っている。

テーマに戻った時には20ぐらいテンポが速くなっているのだが、これは走ってしまったというよりむしろ、ノリノリで気持ちがいい。最後は怪しげな雰囲気がかっこいいエンディングで終わる。

Ruby, My Dear

AABA32小節1コーラス。モンクの3大バラードのひとつ(らしい)。管楽器はホーキンスだけで4人による演奏。

イントロの後、テーマが1コーラスがあるが、もうここでホーキンスのサックスに聴き惚れてしまう。

続くソロも1コーラスであるが、曲の骨格を残し、変奏に近いインプロヴィゼーション。とても表情豊かでコルトレーンとは対照的である。しかしこれはどちらが良いと言うものではなくて好みの問題だろう。コルトレーンは棒吹きだという批判があるようだが、コルトレーンのスタイルは、当時の古いスタイルに対する反動、粘っこい、しつこい、泥臭いのはもう飽きた..という事であろう。それはマイルスの影響かもしれない。しかし、こういったバラードになると、やはりこのホーキンスのほうが合っているのではないかと思う。特に最後の8小節がエモーショナルで特に良い。

次はモンクだが、サビ入りして8小節という短いソロ。サビ入りとは、本来”AABA”のところを”AA”をカットして”BA”だけにしてしまう。そしてBの8小節だけモンクのソロ、残り8小節をホーキンスがテーマのメロディを吹きエンディングで終わる。モンクのソロはメロディの変奏といった感じで控えめでシンプル。

エンディングはありきたりでなく個性的で非凡。素晴らしい。

この曲は、ソロ中でもカウンターメロディを入れないといけないような、つまりアレンジ自体も曲の一部であるような個性の強さがある。モンクが低音域で鳴らすカウンターラインはホーキンスのソロ中も入ってくる。当然ソロをする方も、そのカウンターメロディを考慮に入れて組み立てなければならないが、ホーキンスのソロはモンクが弾くカウンターメロディとの調和が見事。しかしモンクの左手はベースとぶつかる。ウィルバー・ウェアはベースラインをモンクと合わせた方が良かったのではないか。あるいは潔くデュオにするかである。ベースの音量が小さいのであまり問題ならないだけで、ベースに注目してじっくり聴くと役割分担が上手くいっているようには感じられない。

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