Portrait In Jazz / Bill Evans Trio
2017/8/9
2018/8/18
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ビル・エバンスのアルバムの中でも最も人気の高い、ピアノ・トリオ屈指の名盤。
Album Data
ポートレイト・イン・ジャズ / ビル・エバンス・トリオ
Portrait In Jazz / Bill Evans Trio
Track listing
- Come Rain or Come Shine (Harold Arlen, Johnny Mercer)
- Autumn Leaves (Joseph Kosma, Jacques Prévert, Johnny Mercer)(take1)
- Autumn Leaves (take2 MONO)*
- Witchcraft (Cy Coleman, Carolyn Leigh)
- When I Fall in Love (Victor Young, Edward Heyman)
- Peri’s Scope (Bill Evans)
- What Is This Thing Called Love? (Cole Porter)
- Spring Is Here (Richard Rodgers, Lorenz Hart)
- Someday My Prince Will Come (Frank Churchill, Larry Morey)
- Blue in Green (Miles Davis, Bill Evans)(take3)
- Blue in Green (take2 MONO)*
*Additional track not on original LP.
Personnel
- Bill Evans – piano
- Scott LaFaro – bass
- Paul Motian – drums
Recording Data
- Recorded December 28, 1959.
- Produced by Orrin Keepnews.
こんな方におすすめ。
このアルバムはピアノ・トリオ屈指の名盤でありながら、とても聴きやすい。クラシックが好きな人でもタッチが綺麗でハーモニーが美しいので入りやすいだろうし、ロックなど激しめの音楽が好きな人でも、ビル・エバンスのアルバムの中では比較的元気のいい曲が多いのでおすすめできる。
ベースのスコット・ラファロとのアルバムは「リバーサイド四部作」と呼ばれ、どれも名盤であるが、その中でも聴きやすい方なのでビル・エバンス最初の一枚としても、おすすめである。
さらっと聴いた感じ
さらっと聴くと普通の趣味のよいピアノトリオに聴こえるかもしれない。エバンスのピアノはタッチが美しくハーモニーが綺麗で、アルバムジャケットと同様にきちっとしている感じがする。天才ベーシストのスコット・ラファロは、よく動く、よく歌うベースラインでサウンドを支える。ただ、このアルバムでは他のアルバムと比べると動きが少なめでラファロにしては堅実。ドラムのポール・モチアンは繊細で、特にシンバルのサウンドがとても綺麗。
高い芸術性を感じさせるピアノトリオ名盤中の名盤であるが、さらっと聴いても十分にその魅力は伝わってきて楽しめる。しかし、さらっと聴いてるつもりでも知らないうちに引き込まれてじっくり聴いてしまうぐらいのすごいアルバムである。とにかく完成度が高く、すべての曲がすばらしい。
じっくり聴いた感じ
Come Rain or Come Shine
原曲の面影はあるものの、とても美しいハーモニーとメロディに多様性に富むリズム、これぞまさしくエバンスのサウンドになっている。曲構成はイントロなしのABAC形式32小節を2コーラス、そしてエンディングである。テーマ、アドリブといった分け隔てがあまりない。最初はテーマのモチーフを拝借しているが、少しづつ変形し表情豊かなフレーズが出てくる。左手のタイミングもいい。2コーラス目はリズムに少し躍動感が出てくる。ラファロにしてはおとなしいベースラインであるが、やはり時折魅力的なベースラインが覗く。3分半に満たない短い演奏であるが、非常に密度が濃く、完成度が高く、しかし難しくならず何度聴いても飽きない、素晴らしい演奏。
Autumn Leaves(take1)
この演奏はスタンダード曲である枯葉の、ジャズの名演として非常に有名で、ステレオのテイク1とモノラルのテイク2がある。プロデューサーのキープニュースによると、本当はテイク2がOKテイクだったようだが、ステレオの録音に失敗していたのでテイク1がオリジナルアルバムに収められたという事だ。 という訳でテイク1の枯葉は本来ボツだったという事なのだが、どっこい素晴らしい内容である。曲構成はAAB形式(Aが8小節、Bが16小節)の32小節1コーラス。テンポは205ぐらい。 リズム的に面白いイントロの後、テーマに入ると、ラファロのベースが普通でない事に気づく。各小節の1拍が休符である。これは普通のベーシストのやる事ではない。テーマが終わるとベースソロ…と言うより、エバンスとラファロの短いフレーズの応報になる。これは面白い。普通ピアノはハーモニーを提示するものだが、エバンスは両手ユニゾンでラファロとメロディの交換をする。聴いている方はどこを演奏しているのか忘れてしまうような演奏。それだけオリジナルを超越した演奏と言う事になるだろう。しかしタイムキープは正確。彼らのタイム感覚は精密というレベルである。2コーラスのチェイスが終わると、ピアノソロに入る。モチアンはここでブラシからスティックに持ち替える。ピアノソロはよく歌う素晴らしい内容。冒頭の3度音程を多用した素晴らしいフレーズ、2コーラス目は下降フレーズをたたみかけ、その後印象的な3連符のフレーズなど、音程、リズム、配置、どれをとってもバラエティに富んだフレーズである。エバンスのソロが終わると、また1コーラスのチェイスに入るが、その後半ちょっとエバンスが走ってリズムが不正確な部分がある。ここでモチアンはまたブラシに持ち変えてテーマに備えている。
Autumn Leaves(take2)
さてテイク2だが、イントロやエンディング、曲構成、テンポなどはテイク1とほぼ同じである。大きく異なるのはピアノソロが1コーラス減って時間が短くなっている事ぐらいである。 しかしこちらの方がリズムが正確で、やや力が抜けてる感がある。テイク1はソロとその後のチェイスで少し走り気味であるが、それは測って気づくレベルであり、ビル・エバンス・トリオはリズムはかなり正確なトリオであり、このテイクでもほぼテンポの揺れはない。 ソロで先ず気付くのはテーマにおけるラファロのベースラインだ。相変わらず変態的なラインであるが、1拍は休符ではなく無難なラインになっている。その後に続くチェイスでは、エバンスのヴォリュームがテイク1より落ちているように感じる。そしてエバンスのソロでは3連符を4個づつグルーピングしたフレーズがみられ非常に魅力的である。エバンスのソロに関してはテイク1、2とも甲乙つけ難い素晴らしいソロである。しかしベースとのチェイスに関してはテイク2の方が良いと思う。
Witchcraft
ABCDA形式40小節という、ちょっとおもしろい楽曲構成の軽快な曲。テンポは185。エバンスとラファロが自由に泳ぎ回ってリズム的にはかなり難しいのだが、モチアンがしっかりとリズムの輪郭を描き出すので難しくは聴こえない。特にラファロの2拍3連のベースラインなどは、この演奏の強いアクセントとなっていて聴いていて楽しくなる。ピアノソロ中の、エバンスとラファロのやりとりが対位法的にハーモニーを構築し、さらにリズムにも工夫があって本当に素晴らしい演奏である。モチアンは終始ブラシでしっかりとリズムをキープしている。これだけ自由にエバンスとラファロがリズムで遊んでいるにもかかわらず、テンポが正確なのが驚きである。
When I Fall in Love
有名なスタンダード。テンポ54のスローバラードである。ABAC形式32小節で1コーラスで、テーマを1コーラス、半コーラスピアノソロの後、残りの半コーラスはテーマを演奏。全部で64小節の構成。しかし、ソロもテーマのモチーフを上手く使っているので、ソロとかテーマとかの境界を聴いてる側には感じさせない。ラファロはこの曲では動かず、ルートに徹している。ピアノのハーモニーとメロディ、そしてモチアンのシンバルが、ただただ美しい。
Peri’s Scope
テンポ185の軽快なエバンスの曲。さらっと聴いた時の印象が良い。シンプルで明るい雰囲気の曲だからだろう。テーマ⇒ピアノソロ⇒テーマという構成でベースソロもドラムソロもない。ラファロはシンプルにベースを弾いているし、ハーモニーもリズムも比較的単純でメロディは覚えやすい。しかしエバンスのソロは非常に歌っていて魅力的。特にテーマへと繋ぐソロ最後の締めくくり方は見事である。尚、このアルバムでモチアンが終始スティックを使う唯一の曲である。
What Is This Thing Called Love?
これは非常にかっこいい演奏だ。AABA形式で32小節のスタンダード曲なのだが、原曲を超越した演奏というのはこういう事なのだろう。ジャズを聴き始めたばかりの人にはウケが悪いかもしれないが、マニアはこういった演奏こそ好きになるだろう。このアルバムで最もシンプルな演奏の”Peri’s Scope”の次に、凝りに凝ったこの曲をもってくる、というのはよく練られた曲順である。テンポは240前後のアップテンポだが、メロディがゆったりして、さらにベースラインも最初ゆったりしているので、あまりテンポの速い曲だという気がしない。
イントロは印象的なモチーフがよい。このモチーフはエンディングでも使われる。テーマのAメロは、エバンスがメロディ、ラファロもカウンター的に自由なラインを奏で、さらにモチアンもメロディに合わせているので、誰がテンポキープをしているのか?という感じになるが、勿論このトリオはテンポが狂う事はない。サビに入ると、ラファロは4ビート、モチアンはしっかりとしたリズムをハイハットで奏でる。このAメロとBメロ(サビ)の対比がすばらしい。この対比はエバンスのソロの1コーラスまで続く。さらにAメロでモチアンは音を鳴らさないので静と動の対比がより深まる。しかしエバンスのソロ2コーラス目からは、ラファロもモチアンもノリノリの4ビートになり、それがたまらない疾走感を生みだす。そしてエバンスのソロが終わると、ラファロのソロになる。途中でエバンスとモチアンがぴったりと息を合わせて入ってくるが、これは事前の打ち合わせなしには考えられない。ラファロの1コーラス半のソロが終わると、半コーラスのモチアンのソロになる。モチアンはエバンスのソロからスティックに持ち変え、モチアンのソロの終わりでまたブラシに持ち替える。テーマに戻って最後のエンディングもとてもかっこいい。エバンスは女性に人気があると言うが、この曲はとても男性的である。
Spring Is Here
テンポが”When I Fall In Love”とほぼ同じで55のスローバラード。ABAC形式1コーラス32小節。これを2コーラス演奏している。エンディングで4小節ほど付け足されている。テーマとソロの区別がないが、最初と最後の16小節ぐらいに、曲のメロディが出てくる割合が高くなっている。原曲のハーモニーが”When I Fall In Love”と違ってありきたりではないので、エバンスの複雑なハーモニーが堪能できる。ラファロのベースラインはそんなに動かないが、2コーラス目の中盤で動くことろがあり、そこでエバンスが空白を作ってあげているのがよくわかる。モチアンは得意のブラシで繊細に堅実にサポート。エンディングの上から下への崩れる感じがとてもよい。
Someday My Prince Will Come
ディズニー映画「白雪姫」の主題歌で有名なスタンダード曲。ABAC形式32小節。このアルバム唯一の3拍子の曲である。テンポは185ぐらいのアップテンポ。王子様は馬に乗ってすぐにやってっくるイメージだろうか。イントロ、テーマ、ピアノソロが4コーラス、ベースソロが2コーラスでテーマに戻るという、あまり工夫が見られない構成である。有名なスタンダードであるからか、わかりやすい演奏である。ラファロが暴れたりはしない。だからこそ、このアルバムは人気が高いのかもしれない。エバンスのソロはここでも、バップ的なフレーズ、スケール中心でモチーフを展開するフレーズ、ポリリズム的なフレーズなどが変化に富んでいるため全く飽きない。これが知的と言われる所以であろう。
Blue in Green(take3)
非常に美しいモードの曲。このアルバムには4曲のバラードが収められているが、この曲だけ特殊である。普通はAABAやABACなど形式32小節で構成されるのが一般的であるが、この曲は10小節を2回繰り返す20小節の曲である。さらっと聴いてるだけでは気付きにくいが非常にシンプルなのである。テーマはテンポは66ぐらいでゆったり始まるが、ピアノソロに入ると倍のテンポ(132ぐらい)になる。これはリズムだけが倍テンポになるのとは違い、小節の長さが半分になり曲全体も倍のテンポになる。さらにソロの途中でその倍のテンポ(265ぐらい)になり、かなり躍動感も出る。ここでは2拍子のようである。そして次は半分のテンポ(123ぐらい)になり、テーマでさらにその半分のテンポ、つまり元のテンポ(60ぐらい)に戻る。つまり、元のテンポ(66)⇒倍テンポ(132)⇒倍々テンポ(265)⇒倍テンポ(122)⇒元のテンポ(60)、という具合にだんだん早くなってだんだん遅くなる。ちなみに後に行くほどテンポが落ちている。緩やかにスローダウンすることで停滞感があり、青と緑の深海に沈んでいくような美しいエンディングとなっている。
Blue in Green(take2)
take2はtake3に比べてピアノソロが短くコンパクトになっている。全体的な構成は同じである。take2は短い分だけ、ちょっと忙しくテンポが変わるような気がする。静寂感、沈み込む感じはtake3の方が強い。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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