Kind Of Blue / Miles Davis
2017/8/21
2018/7/14
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60年代ジャズの方向性を決定づけた歴史的名盤。ジャズ最大の傑作とも言われ、全世界でのセールスは1000万枚を突破。ジャズで最も売れたアルバム。
Album Data
カインド・オブ・ブルー / マイルス・デイビス
Kind Of Blue / Miles Davis
Track Listing
- So What
- Freddie Freeloader
- Blue In Green (Evans, Miles)
- All Blues
- Flamenco Sketches (Evans, Miles)
Except where otherwise noted, tracks composed by Miles Davis.
Personnel
- Miles Davis – trumpet
- Julian Cannonball Adderley – alto saxophone (except on 3.)
- John Coltrane – tenor saxophone
- Bill Evans – piano (except on 2.)
- Wynton Kelly – piano (on 2.)
- Paul Chambers – bass
- Jimmy Cobb – drums
Recording Data
- Recorded on March 2 and April 22, 1959.
- Produced by Teo Macero and Irving Townsend.
こんな方におすすめ
歴史的な超名盤なのに聴きやすいので、全ての方におすすめ。
さらっと聴いた感じ
“Kind Of Blue”というタイトル通り、全体を通してブルーな雰囲気に溢れている。そして静寂でクールな印象。曲のメロディはどれもシンプルでハーモニーは美しい。
ジャズに熱いモノを求める人は「そんなに言われるほど名盤?」という印象があるかもしれない。しかし、それは前評判が良すぎてハードルが上がっているから、そう思ってしまうのだろう。粘っこいキャノンボール・アダレイはすこし浮いている感じがする。
じっくり聴いた感じ
So What
AABA形式32小節のモード曲。コードはたったの2つ。Dm7が16小節、E♭m7が8小節、そしてDm7が8小節、という非常にシンプルな構成。それはフレーズを組み立てる自由度が増え、よりプレイヤーの力量が問われることになる。反射的に出るフレーズや手癖(リックとかフィンガー・メモリーと言う)で対処していては誤魔化せないし、到底ネタが持たない。そこを注目して聴いてみる。
ソロは、マイルス→コルトレーン→キャノンボールが2コーラスづつ、最後のエバンスが1コーラスである。 イントロは静寂感があり素晴らしい雰囲気である。ベースとユニゾンしているので、事前に打ち合わせ済みなのだろう。テーマはコール・アンド・レスポンスである。ベースが呼びかけピアノが答える。10小節目から管楽器も入ってくる。それ以降の各楽節(8小節)では、4回のコールとレスポンスがあるが、最後の1回だけ管楽器は抜けてピアノだけが返答する。こういった細かい配慮がある。ぼっさり聴いてると気づきにくい。尚、ドラムのコブはブラシを使用している。
テーマが終わるとマイルスのソロである。最初にルート音(D,レ)を強調する。そして1コーラス目はDmトライアドの構成音(D,F,A=レ,ファ,ラ)でフレーズを組み立てる。2コーラス目になると今度はCメジャートライアド(C,E,G=ド,ミ,ソ)を中心にフレーズを組み立てる。3度音程のモチーフを発展させる、という事でビバップ的な発想ではない事がわかる。
コルトレーンのソロも同様に、マイルスの延長線上のモチーフ展開を続ける。DmトライアドにGを加え、そして次にCを加えてDマイナーペンタトニックになっていく。少しづつ使う音を増やしていき2コーラス目は音数が随分増える。
そしてキャノンボールのソロは最初から音数が多い。ライナーノーツには「キャノンボールはあまりモードを理解していなかった…」との旨が書かれているが、そうは思わない。これはモード的なソロである。ビバップやハードバップでよくみられるアプローチトーンやアルペジオといったものはない。
キャノンボールのテナーはピッチの変化が大きく音に粘りがあり、そこがマイルスやコルトレーンと大きく異なる、つまりスタイルが全然違う。その事で少し浮いた存在となるはずである。しかし、このアルバムではそう感じない。その理由は、ソロの順番がよく考えられているからである。マイルスはクールでキャノンボールはホット。コルトレーンはどっちも可。ソロの順番がマイルス→コルトレーン→キャノンボールで、自然とだんだん盛り上がるようになっている。しかしこのアルバムのコンセプトは静寂感の漂うブルーでクールな雰囲気なので、最後は落ち着いて終わらねばならない。だからエバンスはこの曲では火消しである。その為本当に控えめで地味なソロになっている。しかも管楽器のリフレインがつくので、自由に出来ないソロになっていてエバンスは見せ場がなくて可哀そうな感じがするが、性格が良かったというエバンスはクールダウンの役割をきっちりこなす。
エンディングはレコードならではのフェードアウト。
Freddie Freeloader
ミドルテンポ(131)のクールなブルースである。テーマは12小節を2回繰り返す24小節。ブルースは本来24小節で1コーラスとするべきだが、ジャズでは12小節を奇数回繰り返すソロも結構ある。そうなると24小節で1コーラスとするのか、12小節で1コーラスとするのか迷うのだが、この曲の場合12小節の最後の2小節のコードは1回目と2回目で異なるので、24小節で1コーラスとするが妥当だろう。
テーマは抑制の効いたクールな雰囲気が良い。メロディは全音下降のモチーフを繰り返し、最後に半音づつ下りてから上るというシンプルなものである。これがチャーリー・パーカーのブルースならばメロディは複雑で、コードも細分化されているはずである。だが、モードだとこんなにシンプルになるのである。ケリーのピアノがカウンターメロディを奏でるが、もうそれがメロディの一部のようである。
まずケリーのピアノソロだが、ここはいつも通りのケリーであり、ハード・バップのブルースそのものである。
マイルスのソロは音数が少なく印象的なソロをする。これはいかにもモード的である。
コルトレーンもスケールに基づいたソロをしている。マイルスと比べると音数が多くコルトレーンらしいソロである。そしてソロの長さが2コーラス半である。誰も気がつかないかもしれないが変なところで終わっている。このようにブルースでは多くのプレイヤーが12小節単位でアドリブをしているが、この曲のように1コーラス24小節としなければおかしくなるような場合でも、12小節×5回(奇数)でアドリブをするという面白い例である。
しかしキャノンボールはその事に気づいている。コーラス途中からソロを始めて、その後ちゃんと2コーラス、つまり2コーラス半でソロを終えている。キャノンボールはホットでエネルギッシュな粘りのあるフレーズが多い。これこそキャノンボールの真骨頂だが、それはクールとは程遠く、はっきり言ってアルバムのコンセプトからはハズれた事をしているのだが、これはこれで魅力的で面白い。しかしコテコテにならないのは、コブのドラムがクールに対処しているからだろう。これがブレイキーだったら叩きまくっているだろうに。ケリーもそんなに煽らないし、これはマイルスのコントロールが効いているという事である。そのため、統一感と個性が絶妙なバランスを保っている。
この曲もコルトレーンとキャノンボールの盛り上げ隊が曲のクライマックスを演出し、チェンバースがクールダウン役である。ソロ後半はウォーキングベースで落ち着いた雰囲気でテーマに戻る。
Blue In Green
曲の持つ美しさが際立つ演奏である。アドリブはメロディの変奏に近い。ただし、テンポが複雑である。ジャズでは倍テンポ(Double Time Feel)という言葉がある。メロディとハーモニーはそのままでリズムだけ倍の長さにする事であるが、この曲はメロディとハーモニーも倍になったりする。さらにその倍になったりしている。ここではそれを「倍テンポ」「倍倍テンポ」と呼ぶことにする。だたしドラムのコブはあまり反応していない事もあって、わかりにくいかもしれない。構成とテンポをまとめると以下のようになる。尚、1コーラスは10小節x2回の20小節で元テンポは56、倍テンポは112、倍倍テンポは224ぐらいになる。
- イントロ8小節:倍テンポ
- テーマ1コーラス:元テンポ
- ピアノソロ1コーラス:倍テンポ
- テナーソロ1コーラス:倍テンポ
- ピアノソロ1コーラス:倍倍テンポ
- テーマ1コーラス:元テンポ
- エンディング1コーラス+3小節:倍々テンポ
さらっと聴いただけでは気づかないかもしれない。実は結構凝っている。
マイルスのソロは無い事になるが、テーマ自体がソロのようでありテーマの変奏のようでもある。どちらにしても、ミュートをつけたマイルスの演奏は歌い方が素晴らしく、このアルバムの中でも際立った美しい曲である。 エバンスのアルバム「ポートレイト・イン・ジャズ」に収められたものと比較してみると面白いだろう。
All Blues
24小節のブルース(3/4拍子)で、後に8小節の間奏が追加されて32小節。テーマではそれをリピートし64小節。ただしアドリブではソロを受け渡す際にのみ間奏が挿入されているので、1コーラス48小節となる。テンポは140。ブルースではあるがモード曲である。そのためメロディは非常にシンプルになっている。
マイルス→キャノンボール→コルトレーン→エバンスの順でソロ。”So What”と”Freddie Freeloader”とはサックスの2人の順序が逆になり、そのためキャノンボールの音数よりコルトレーンの音数が多くなっている。これは盛り上げ担当がコルトレーンになったと言う事である。ここまで聴いて気付くのは、仕組まれたように徐々に盛り上げていくように各ソロイストがアドリブを繋いでいる、という事だ。まずマイルスが音数の少ないモチーフ展開のソロをする。2番目のキャノンボールが音数多めのモチーフ展開、3番目のコルトレーンのソロで盛り上げてエバンスでクールダウン、という流れがきっちり出来ている。これはおそらくマイルスの指示であろう。こういったところが超名盤たる所以なのかもしれない。よく計算されていてコンセプトを全員が理解している。このマイルスによるコントロールが、この曲を魅力的なものにしており、さらっと聴いても楽しめる音楽になっている。
マイルスは覚えやすく印象に残るシンプルなモチーフを提示し、それを展開させていく。とても聴きやすく魅力的である。キャノンボールがそれをさらに発展させる。親しみやすい魅力的なソロである。”So What”と”Freddie Freeloader”と比べるとキャノンボールのソロが変化しているのがわかる。明らかに2番打者の役割を意識している。コルトレーンはこの曲のクライマックスを担当しており、このアルバムで一番音数の多いコルトレーンになっているのがよくわかるだろう。エバンスのソロは控えめに感じられるが、やはりエバンスもモチーフを発展されてフレーズを構築している。ただし、メロディではなくリフのモチーフを使っているところがマイルスとは異なる。これが親しみやすさをさらに増している。
Flamenco Sketches
さらっと聴いた時に印象が薄かったが、じっくり聴くと味わい深い曲。この曲はモードについて書かないと説明が難しいので、専門的になってしまうが書いてみる。以下の通り 4種のモードを使う。4小節または8小節毎にモードチェンジする24小節の曲である。
Cイオニアン(4小節)
A♭ミクソリディアン(4小節)
B♭イオニアン(4小節)
Dフリジアン(8小節)
Gエオリアン(4小節)
前半の12小節は明るいキャラクターのイオニアンとミクソリディアン、後半の12小節は雅なフリジアンと暗いエオリアンとなっている。この前半と後半の対比、各モードの変化に注目して聴いてみるとよい。尚、フリジアンのところはハーモニック・マイナー・パーフェクト5thビロウ、又はスパニッシュスケールというフリジアンに近いスケールを使っているかもしれない。その場合エオリアンがハーモニックマイナーになっている可能性がある。
ソロはコルトレーン→キャノンボール→エバンスの順に1コーラスづつ。ただ、ここで仕掛けがある。気付きにくいがキャノンボールとエバンスのソロでは曲の長さ(1コーラスの長さ)が変化する。CイオニアンとB♭イオニアンはテーマとコルトレーンのソロでは4小節づつであったが、ここが4小節追加され8小節づつになり1コーラス32小節になっている。キャノンボールはこの増えた4小節を伸びやかな気持ちのいいフレーズに使っていて、この曲のクライマックスになっている。小節が増えるのは明るいイオニアン・モードの箇所だけなので、曲の明るい部分が増える事になり、演奏の後半でやや解放感が増す。気付きにくいがマイルスはそこまで考えているのである。ちょっとした工夫だが他のジャズ・ミュージシャンはここまで考えないだろう。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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